佐藤友哉「エナメルを塗った魂の比重」「水没ピアノ」

今の精神状態なら、積んだままだったこいつらを楽しめるだろうかと引っ張りだして読んでみた。デビュー作の「フリッカー式」は、遠慮がちに言ったとしても、とても人様にお金を出させてまで読ませる本とは言えない出来だったが、これら2作品は、まぁ金銭&労力&時間相当は楽しませてくれるものだと言っても良いんじゃない。デビュー作から見て露骨に成長が表れているところが、個々の作品以上に作者自身に注目が集まってしまう遠因となっているのだろうと認識。内容については別に触れるべきところもない。読んでない人にはわからないだろうし、読んだ人には話さなくてもわかるんだろうとしか言いようの無い特異でどうでもいいストーリー。ちりばめられた同時代的記号によって共感だか雰囲気だかを築こうとしている安易な姿勢には正直言って反吐が出そうになるし、実際、そんなことしてるから読者も限定的になるんだよと言いたいが、世代の代弁者みたいな地位を嬉々として受け入れてるみたいだし、いいんじゃないっすか。自分の声のない人たちは、この作者を好きと広言することで、また新たな記号性を獲得するなんて、いかにもこの作者の好きそうな世界だよ。って言ったところで例外なんてどこにも無いんだけど。