かきかけのまま

斜め下45°を見ながら歩いていたら、だれかの証明写真の切れ端を見つけた。それがまたしょうもないおっさんの写真で、不思議と笑えてきてしまって、涙がこぼれようとも、下を向いて歩こうと思った。45°の角度で。そうしたら、なんか、知らない国のお菓子の包み紙とか、先週号のマガジンとか、キーホルダーの先についたよく知らないキャラクターとか、そういうの見つけては、笑ったりできるだろう。


くるりの曲で”リコシェ”というのがあって、名曲かどうかは知らないけど、俺はその曲の一節にある「君みたいなやつは100人くらいいるんだろう」ってのが妙に忘れ難かった。そこから色んな意味を読み取ってたんだと思うんだけど、ふと、100人くらいいたとしても、それが日本に100人だとしても、東京には10人くらいしかいなくて、東京で10人って会える気がしないなと思った。東京に100人でも難しいよ。


古川日出男の新作「LOVE」を買った、ということを書く前に、自分はレビューを書くよりもプレビュー、感想よりも「なんでそれを買ったか」という部分を好んで書いていることに、今、気が付いた。そっちのほうが俺にとっては記録しておきたいことのように感じている。本やらCDやらは買う気になった時点で、すげえ大きな心の動きがあって、それはもちろんパーソナルなものなんだけど、そういう部分で何かを共有したいってこともあるし、何より「なんで買ったか」って部分を煮詰めて残るものを考えておかなければならないと思っているらしい。加えて、レビューなんてそのへんにゴロゴロしてるし、多分、俺はそのへんにゴロゴロしてるもの以上のものは、今んとこ書ける気がしないし。


タバコを買いに行こうと外へ出た、朝6時。Tシャツ短パンという格好をひんやりと冷気が包む。夜明けまで友人とバカな話をしてた名残の火照りを冷ましていく。このまま、どこか遠くへ行きたい、なんて思うには格好の瞬間だった。それからどうしたかと聞かれれば、もちろんタバコを吸ったと答える。ひきずるようなセンチメンタルを抱えたまま、こうして、どんどん寒くなって、そして、また暖かくなる頃には、僕は今とはまるで違う生活をしているのかも知れないけど、こんな風に感じる僕は、ずっとこのままここにいるのだと言える。思考が情に捩じ曲げられる、そんな季節を、今、迎えている。